大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)4987号 判決 1977年5月06日
原告
岩田辰三
右訴訟代理人
細川喜信
被告
豊後不動産こと
溝畑隆司
右訴訟代理人
酉井善一
主文
被告は原告に対し、金七七万一、六八四円およびこれに対する昭和四九年一一月九日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、四分し、その一を被告の負担、その余を原告の負担とする。
この判決は、原告において被告に対し金二五万円の担保を供するときは、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一原告が岩田商事、被告が豊後不動産の各商号で不動産仲介業を営む、宅地建設取引業法に基く免許登録業者であること並びに被告の仲介により訴外松田幸太郎が近江開発に本件土地を売却した事実は、当事者間に争いがない。
二<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
(1) 原告は、昭和四四年から不動産仲介業を営み、被告は塗装業を営むかたわら、不動産仲介業を兼営している者であるが、同四七年頃被告が不動産仲介業を開業した際、原告は、大阪府の同業者の団体への被告の加入につき推せんの労をとつた程被告と親密な間柄であり、同年七月一八日には、被告がその所有の土地建物を訴外西村かめに売却するにつき原告が仲介し、同年一〇月二六日には、訴外山地良一がその所有地を訴外青木藤吉に売却した際、原、被告で仲介したこともあつた。
(2) 昭和四七年九、一〇月頃、原告は、前記松田幸太郎からその長男松田幸夫を通じ幸太郎所有の本件土地を坪当り金五五万円位で売却する依頼をうけ、前記のような間柄にあつた同業者の被告に、右受託の情報および原告の紹介先の売買交渉が成功しないときは、被告において仲介してもよい旨を伝えるとともに、土地の所在、地主の氏名を表示した図面を、被告に交付し、自らは、長谷川工務店を本件土地の買受希望者として幸太郎に紹介し、売買交渉を続けた結果、買受側は坪当り金七二万円まで買値の切上げを試みたが、地主側の容れるところとならず、価格の点で折合いがつかないまま交渉が行詰つていた。
(3) 一方被告は、昭和四七年一二月下旬原告から長谷川工務店への売込み交渉が行詰つた旨の報せをうけると、訴外上荷正信、同内匠龍充を加えた三名で、近江開発への売却をあつ旋した結果、同四八年一月二五日坪当り金九〇万円、総額二億五、七三二万八、〇〇〇円で本件土地の売買が成立し、売主松田幸太郎から、仲介報酬として金七七一万六、八四〇円の支払をうけたので、上記被告ら三名において三等分したうえ、上荷、内匠の両名から他の世話人への謝礼分担として、各金六〇万円ずつ提供をうけ、そのうち金二〇万円を被告から前記世話人へ交付したが、残金一〇〇万円は、被告が留保している。
以上の事実を認めることができ、<証拠判断・略>(る)。
三ところで、不動産仲介業界においては、ある業者が客から不動産売買の委託をうけると、いわゆる根付業者として、その情報を親しい他の業者に流し、共同で相手方を見付け、その結果売買が成立し仲介報酬を取得したときは、均分または役割に応じて配分するという共同仲介に関する商慣習の存在する事実は、被告の認めて争わないところであるのみならず<証拠>によつてもこれを窺知することができるが、<証拠>によれば、最近の関西地方における不動産仲介業界では、売買当事者の早期発見ないし広域探査の便宜上、右のような共同仲介の事例が増加していることが窺われ、前示争いのない事実に前記認定事実並びに<証拠>を合わせ考察すると、被告らのなした本件土地の近江開発に対する前記売買の仲介は、本件のような同一物件に対する仲介人が数人介在する場合におけるいわゆる指示仲立の仲介報酬の分配について、当事者が事実たる慣習によるの意思をもつてなした取引行為と認めるのが相当であるから、原告の全立証によつても、均等配分の特約の存在した事実は認められないけれども、原告は、その果した役割すなわち取引の端緒となつた情報の提供という不可欠の役割に応じた報酬をうけることができ、その配分率としては、<証拠>により認められる仲介の難易、費した労力、期間等諸般の事情を斟酌して、少くとも被告はその受領した報酬額の一割を下らない額を原告に支払うべき義務があるというべきである。
四そうすると、原告の本訴請求中、被告に対し、金七七万一、六八四円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四九年一一月九日以降完済に至るまで商事法定率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(仲江利政)